ネットショップに興味はあるけど何から取り組めば良いか分からない方、ネットショップで販路拡大を考えている方向けにECに関するノウハウや最新情報を発信していきます。
海外発送の基礎
国内ECと越境ECの最大の違いは輸出入を伴うことでしょう。専門的な貿易用語や英語での書類作成、よく分からない輸入規制など、海外発送ならではの煩わしさが越境ECを始めたい気持ちにブレーキをかけてしまうかもしれません。しかし、本コラムの章立て順に理解していけばそこまで難しくありません。
一般的な輸出入通関の流れ
② 荷物検査:爆発物等の危険物が混入されていないか、国際法で規制されている動植物製品、武器・弾薬、麻薬などが紛れていないか等を確認する
③ 検疫・成分検査等:特に輸入時の手続きで重要。輸入国の法令規則に沿った形で審査や検査を実施する
④ 通関手続き:商品の価値を算定し、関税や消費税等の課税額を決める。輸出通関では輸出国における免税評価を行い、輸入通関では輸入国での課税額を算定する
越境ECの物流モデル
(図1)越境ECの直送モデルと保税区モデル
図1のように、日本側で注文ごとに商品を個別に梱包し、それぞれのお客様に直接発送するのが「直送モデル」です。事前にまとまった量の自社商品を海外倉庫に輸送しておき、個別の注文を受け次第、注文のあった部分だけを輸入通関して配送するのが「保税区モデル」です。なお、輸入通関を完了させない状態で、海外の倉庫に保留することを「保税」といい、このような保留が許されている地域を「保税区」と言います。この機に保税の言葉の意味も理解しておきましょう。
直送モデルと保税区モデルには、それぞれメリットとデメリットがあります。以下の表1はこれをまとめたものです。
(表1)直送モデルと保税区モデルのメリット・デメリット
ざっくり言うと、直送モデルのリスクは「物流コスト」と「配送日数の長さ」、保税区モデルのリスクは「在庫」と言えます。
半面、直送モデルは「最小限のリスクですぐに始められること」、保税モデルでは「運賃を節約でき配送日数も短い」というメリットがあります。商品自体の価格帯や在庫回転率、期待できる発注件数を考慮して物流モデルを決めていくと良いでしょう。単価が低く数を売り捌いて利益を出す商品は保税区モデルが向いていますし、ニッチな需要をとらえた高価格・高付加価値の商品は、発注件数が散発することが多いので、直送モデルの方が向いている場合が多いです。注意したいのは、発送ごとに原産地証明や製品安全データシートの提出が求められる等 、発送ごとの手続きが煩雑な場合です。この場合、直送モデルの負荷は当然大きくな ります。手続きの煩は、相手国の規制・規則によって大きく異なります。直送モデルで対応する場合、規制・規則を調べて相手国を絞る必要性も出てくるかもしれません。前述した輸入規制や検査手順を調査する際は、事前申告の内容とともに、発送都度に必要な手続きまで明確にした上で、物流モデルや発送のオペレーション体制を決めていくとよいでしょう。
代表的な輸送手段
直送モデルから手軽に越境ECを始める場合、個々の商品の重量や大きさにもよりますが、国際郵便(EMSやEパケット等)や、クーリエサービス*1(DHL、FedEx等 )を利用する発送者が多いようです。国際郵便やクーリエサービスは、比較的手軽で速い点が利点です。
国際郵便は、最寄りの郵便局で受け付けてもらい、相手国の郵便局に引き渡されて配送されます。輸出入処理は一般扱いとなるため、急な検査など税関で保留されるとトレースしにくい等のデメリットがある一方で、個配の航空便としては比較的安価で発送できる点がメリットです。
クーリエサービスは、それぞれの輸送会社が海外のお客様宅まで一貫で輸送します。各社に専属の通関士が輸出入申告を行いますので、トレーサビリティ*2 の高さと通関の確実さがメリットです。料金は国際郵便に比べて、多少高くなる傾向があります。この他、最近は、海外の大手ECプラットフォーマーが共同輸送便を設定していたり、同一の仕向地に対して他社商品と共同輸送を行う運送業者もあったりする等、中国やアメリカ、台湾、シンガポールといった相手国がメジャー な場合は配送の選択肢も多様化しています。保税区モデルの場合は、エアカーゴサービスや海運のサービス業者を使うことで、個別配送よりも一商品あたりの配送費を大きく節約することが出来ます。このような本格的な輸出を行う場合、最低限のスペースを満たす出荷ロットが必要です。一商品あたり配送費用は節約できるものの、在庫リスクは上がっていく点に、留意してください。
*1クーリエサービス:航空便で海外に書類や小口荷物を届ける民間の配達サービスのこと。
*2トレーサビリティ:商品の生産過程や流通過程が追跡できること。
運賃などの費用負担の決まり方
海外発送を始めるにあたり、貿易の費用負担の考え方も理解しておく必要があります。
国内ECで消費者に直送する場合は、原則は「元払い」「着払い」の2種類で、お客様に購入時に選択していただく場合が多いでしょう。商品購入時に消費税込みの価格が提示され、決済の流れは比較的シンプルです。
これに対して越境ECはもう少し複雑です。「通関手数料」「輸入時の検査費用」「関税」「輸出国の諸税」など、国内ECでは発生しない費用も登場します。以下の図2を使って、物流の流れとともにかかる費用を理解しましょう。そして、それぞれの費用負担の方法をあらかじめお客様と決めておきましょう。
(図2)越境ECで発生する主なコスト
越境ECでは、発送する相手国が複数ある場合、国ごとに運賃も関税等の額も異なります。発送者が運賃や関税等の支払処理を負担し、お客様には購買時に事前に「送料等」という形で支払ってもらう場合は、相手国やエリアごとの料金表を提示する等、トータルの購入費を試算しやすくしましょう。サイト上での試算ができないと購買意欲を下げてしまうかもしれません。
また、関税などお客様の受取時に負担していただく費用がある場合は、利用規約だけでなく決済直前でも注意提起するなどし、正しく理解してもらいましょう。たとえ、利用規約にお客様負担を記載し、お客様に見落としの非があったとしても、お客様の心に残ってしまうネガティブな印象は拭えず、口コミやリピートに悪影響があるかもしれません。 まずは海外発送の大枠を理解しましょう!
今回は、海外発送の流れ、越境ECの物流モデルと費用負担のポイントについて、基本的な内容をまとめました。いくつか専門用語もありましたが、意味が分かれば輸出入の大枠が案外シンプルで、意外にも壁が高くないことに気付かれるかと思います。
半 田 泰 代