ECコラム
ネットショップに興味はあるけど何から取り組めば良いか分からない方、ネットショップで販路拡大を考えている方向けにECに関するノウハウや最新情報を発信していきます。
SNSの投稿をする前に確認すべきこと
2023/11/27 最終更新日・2024/03/26
FacebookやX(旧Twitter)を振り返ってみると、SNSとは企業がマーケティングを行うために開発されたものではなく、元々は知人たちとの交流を楽しむことが主たる目的のサービスでした。しかし、2010年代に入って以降、SNS各メディアのユーザー数は加速度的に伸び、当初は見向きもしなかった企業もSNSは無視できない存在となりました。一方で、各SNSのユーザーはそもそものSNSの目的である「ユーザー同士の情報交換や交流」を楽しんでいるケースがほとんどです。交流を楽しむ場に向けて企業がマーケティング色の濃い情報を投稿することは、イメージダウン等、逆の効果を生むこともあります。まずはSNSの成り立ちとユーザーの特性について細心の注意を払いながらSNS運用に取り組む必要があります。つまり、ECサイトのように集客や売り上げを狙うだけでは成果は得られません。事業におけるマーケティングツールとしてSNSを行う場合、明確に目的を理解して最適な形で連動させることが重要なのです。
EC事業上でのSNS活用
図1 EC事業におけるSNS運用の目的とKPI例
EC事業でSNSを活用するためにも、まずはEC事業におけるSNSの目的を整理し最適なKPI(重要業績評価指標)を定めることが重要です(図1)。主な運用目的として挙げられるものは、例えば「潜在顧客、顕在顧客へのアプローチ」「ブランドイメージの向上」「ECサイトへの誘導」等が考えられますが、これらは対象の顧客ターゲットやフェーズによってもさまざまです。ここで述べている「フェーズ」というのは、例えば集客したい顧客が「まだ知られていない自社の商品や製品を知ってもらう、あるいは新規顧客へもっと知って欲しい、新しい顧客が欲しい」状態であればフェーズは「認知拡大」の段階といえます。つまり顧客がどの状態にあるのか、ということをまずは整理してください。先ほどの例のように、顧客フェーズが「認知拡大」で、そのフェーズの顧客を獲得することが目的の場合、投稿のリーチ数(アクセス数)やインプレッション数、プロフィールのページビュー数を追う必要があるというのが見えてくるかと思います。Instagramの場合だと、新規顧客獲得のためにはフォロー以外へのアプローチが必要になるため「発見タブ(虫メガネのアイコン)」から見てもらうために「ハッシュタグの最適化」や「エンゲージメント(「いいね!」やコメント、保存等の反応)の高い投稿は何かの研究」といった施策を考えることができるようになるでしょう。また、リーチ数と一言にいっても「フォロワー以外のリーチ」を増やしたい場合、一般的にSNSのユーザーはハッシュタグで関心のあるワードを検索することが多いため、自社のアカウントに誘引するためには適切なハッシュタグを使う必要があり、「エンゲージメントの獲得」をしたい場合どのような内容の投稿に反応があったのか、や、投稿頻度と関係があるのか、等の分析が必要です。「投稿の保存数(ブックマーク)の増加」をしたい場合は目を引く写真や動画を作る必要が出てくるでしょう。
他にも「ECサイトへの誘導」が目的の場合、SNS経由での購買行動が重要なポイントになります。自社商品やサービスに興味を持ってもらうことが重要なので、商品タグ付き投稿のエンゲージメント、リンクのクリック数、投稿からのサイト遷移も重要であり、その分析から投稿の見直しや、投稿に掲載するハッシュタグの増加等の施策も考えられます。この場合ですと、「タグ付き投稿の平均エンゲージメント率を○%にする」や「月間の合計リンクのクリック数を○クリックにする」等がKPIになるでしょう。
また、SNS活用で多い目的として挙げられる「ブランドイメージ向上」の場合、ブランドの好感度上昇がポイントになります。ユーザーからポジティブな反応をどれだけ多くもらえるかが重要ですので、投稿のエンゲージメント数やエンゲージメント率、ブランドに関するハッシュタグのUGC(ユーザーによるブランドに関する投稿等の口コミ)が見るべき数字になります。例えば「投稿の月間平均エンゲージメント率○%」や「月間のUGC増加数○件」等KPIになるでしょう。
メインのターゲットユーザーを整理する
誰に、どの商品やサービスを利用して欲しいのかを明確にしているでしょうか?SNSを運用する上で、メインターゲットは必ず決める必要があります。この場合、性別や年齢等の属性的な情報だけではなくターゲットの休日の過ごし方や趣味、どのような洋服やインテリアが好きか等、価値観に関する情報も仮説ベースで構いませんので、考える必要があります。つまり、消費者心理や価値観の深堀が大事であり、その深堀した心理や価値観を明確に言語化できていると、ターゲットにしているユーザーが興味を持つような投稿や情報作りができます。逆にそれがないと発信内容のズレが生まれる要因になります。SNSでは共感を得やすくするためにSNSアカウントのトーン&マナー(世界観の一貫性)を決める必要があります。画像投稿をする場合、伝えたいブランドや商品のイメージが伝わるような明度や彩度の写真や文字フォント、写真の構図を考える必要があります。例えば、投稿する写真をモノトーンにするのか、パステルにするのか、投稿する画像や動画の加工テイスト(フィルター等)はどうするのかだけではなく投稿する際の口調や言葉使いもターゲットの趣向に合わせて統一する必要があります。SNSアカウントは「視認性(どのような情報を発信しているのか瞬時にわかる)×一貫性(フォローすると手に入る情報が想像できる)×統一感(みていてストレスにならない)」を重要視してください。
さらには、先ほどのフェーズの話にもあったように、「投稿する情報は、潜在層(目的はあれど具体的な商品・サービスのイメージは持ってない)向け情報なのか?顕在層(具体的な商品・サービスを求めているが、どこで購入や体験をするかまでは決めていない)向けなのか?そもそも、自社商品を知っている人向けなのか?知らない人向けなのか?」等によっても変わってきます。この例で言うと、「既存顧客がターゲットであれば購入後の購買体験を向上する投稿を目指す必要があり、新規顧客(非認知)であればニーズを把握し自社製品と関連性を持たせつつも幅広い情報を発信するアカウント作りを意識する必要がある。」ということが見えてきます。
SNS運用計画書で整理をする
ビジネスとして戦略的にSNSを活用していくのであれば運用の前に「運用計画書」を作りましょう。運用計画書とは、SNSの運用目的やKPI、運用方針を定めたものです。運用計画書を作成することで運用に関わるメンバー全員の実施管理ができるようになります。重要なのはその中身ですが、以下の10項目が盛り込まれていると良いでしょう。参考にしてみてください(図2)。
図2 SNS運用計画書の参考例
SNSの目的を理解する
「とにかく始めよう」と曖昧になる傾向にあるのがSNSです。運用当初に目的を確認するとともに運用期間が長くなると本来の目的から外れることもあり、関わるメンバーに周知するために上述した運用計画書で方針や目的を明記しておくことが重要です。また、自社の運用方針を策定すると同時に、競合やベンチマーク先の情報も常にアンテナを張ってください。競合他社のSNSの動向を把握できると、アカウントの成長度合いや、コミュニケーションのスタンス、プロフィールの見せ方や、誘導しているウェブサイト等がわかるので、競合他社が SNSに持たせている役割がわかります。また、あえて競合他社が利用していない SNSを活用することで、ライバルが少ない環境でプロモーションするという選択肢も見えてきます。このような方法で、競合他社のSNSアカウントを調査しながら、「自分たちのSNSの運用が事業成功の手段として適切か?」を学び、SNSはあくまで手段であり目的ではないことも理解してください。いきなり投稿をするのではなく、改めて、自分たちのEC事業において SNSを活用する目的を整理してください。
中小機構 中小企業アドバイザー(新市場開拓)
髙木 真樹
魚屋の副店長から、年商10億円のEC事業会社の
運営経験を経た後、楽天、Y!ショッピング、Amazon、
自社ECを中心としたコンサル会社のチーフとして活躍。
魚屋の副店長から、年商10億円のEC事業会社の
運営経験を経た後、楽天、Y!ショッピング、Amazon、
自社ECを中心としたコンサル会社のチーフとして活躍。
中小/大手企業支援から地方EC支援事業を実施し日経XT
での連載執筆の他、ウェブ解析士マスターとしてセミナー
開催、テキスト執筆など実績多数。
での連載執筆の他、ウェブ解析士マスターとしてセミナー
開催、テキスト執筆など実績多数。