ネットショップに興味はあるけど何から取り組めば良いか分からない方、ネットショップで販路拡大を考えている方向けにECに関するノウハウや最新情報を発信していきます。
コロナ禍のEC市場の現状とこれから
コロナ禍でECは高成長
経済産業省が2020年7月に公表した電子商取引に関する市場調査によれば、日本のEC市場規模は毎年、右肩上がりで成長していますが、2020年はこれまでにない勢いで一気に拡大しています。
分かりやすい例を挙げれば、国内を代表する大手ECモール「楽天市場」を運営する楽天グループ株式会社の2020年12月期決算における国内EC流通総額(楽天市場や書籍EC、ネット宿泊予約のほか、オークションやチケット販売、なども含む)は前期比でおよそ20%増の4.5兆円まで拡大、新規購入者数は前年比で約28%増え、ユーザーあたり購入額(※昨年10~12月の期間)は15%以上増えました。
また、EC最大手のAmazonが2021年2月に公表した年次報告書によりますと、2020年12月期の日本での売上高(直販分やECモール事業における手数料収入など含む)も前年比で3割近い伸びとなる204億ドル(約2.2兆円)程度となっています。ほかの主要な通販・EC事業者の状況をみても、業績は概ね拡大しており、中には前年比で倍増したという事業者もあります。これはもちろん、新型コロナウイルスの影響と考えられます。
各EC事業者の2020年の発表や業界紙の記事を振り返りますと、外出自粛でこれまで実店舗で購入していた商品を通販・ECで購入する「置き換え需要」といわゆる「巣ごもり需要」などがあり、外出自粛が求められる中で1度目の緊急事態宣言時などでは特に日用品や食品など生活必需品の売り上げが通販・ECで大きく売り上げが増加したようです。ECサイト構築や通販システム構築・支援を手掛けるエルテックスの調査などによるとコロナ禍による外出制限やテレワークの推奨などにより、化粧品や衣料品などの関心が下がったとしており、一部のジャンルでは売れ行きの面でも影を落としたようですが、その後の健康志向の高まりや“おうち時間”が増えたことでサプリメントや健康食品、美容家電やゲームなど自宅での使用を想定した商品が売れ行きを伸ばしています。また、「家飲み」が増えたことによって酒類も売れ行きを伸ばしています。ECモール「Yahoo!ショッピング」が発表したデータによりますと、変わったところでは「ぬか床」の売れ行きも伸びており、こうしたECの特需の恩恵にあずかった事業者は少なくなかったようです。
不慣れな新規客層の取り込みを
では、ECの特需は今後も続くのでしょうか。2021年に入ってもコロナ禍はまだ収束しておらず、非対面販売であるECという販売手法は感染防止の観点からも非常に相性がよいわけです。さらに一度、ECで買い物をして、その便利さを体感した消費者は、コロナ禍が収束した後も商品の購入手段として実店舗ではなく、これまで以上にECを利用する人もかなり出てくるのではないかと推測されます。そうしたことからEC事業者にとって有利な状況は続くと言えるでしょう。
ただし、今年以降、事業者がECで売上高を拡大していくためにはいくつか準備が必要になります。まずは新規顧客への対応です。コロナ禍でEC市場が急激に拡大した要因の1つはECの利用者人口が増えたことです。もっと言えば、これまで通販を利用していなかった比較的、年齢層が高くて保守的な層がECでモノを買い始めたということが大きいのではないでしょうか。ECで売り上げを拡大するにはこうした新規顧客を囲い込んでいく必要もあります。
ECビジネスに詳しいコンサルタントらによりますと、こうした層はまずECで生活必需品などから購入し、次に本など以前は実店舗で購入していたものの購入に至り、その先にECで様々な商品を購入するようになっていくというステップをたどっていくようです。
ただし、当該層は購入前に様々な情報を確認する傾向があるようで、それが購買決定のカギを握ります。自社の顧客が何を見ているのか、スマホアプリか、ネット検索か、SNSかはたまたテレビショッピングなのか、紙媒体なのか。それらをきちんと把握して準備を進めることが必要です。
また、当該層は、失敗を避けようと、事業者への問い合わせがこれまでの利用者よりも増えることも予想されます。事業者側ではサイト内に問い合わせ用の電話番号を表記したり、保証期間を明示するなどの準備が必要になりそうです。
新規参入組に備える
もう1つの準備は変わる市場環境への対応です。新型コロナウイルスで実店舗という販路では事業が成り立たなくなった小売店や飲食店、メーカーらが別の販路を見出すため、ECを新たに開始したり、本腰を入れ始めたことも2020年のEC市場の拡大の要因の1つですが、既存のEC事業者にとっては大手企業を含む新規参入組が増えたことでこれまで以上に環境が厳しくなることが見込まれます。
例えば広告1つをとっても、新規参入組がEC事業に割り当てる広告費を増やすことで、入札制広告のクリック単価が高騰することが予想されるなど、これまでのようにいかなくなることも出てくるでしょう。また、SNSなどを積極活用して、これまで以上に顧客とのコミュニケーションをとり、ファン作りやサービス改善などを進める必要があります。いかに資金力を持った大手企業と差別化を図り、自社の強みを高められるか、戦略の再考や見直しが求められそうです。
顧客の声で改善を
新たにECに本格的に取り組み始めた事業者にとっても、2021年は正念場になりそうです。緊急避難的にECに取り組んだフェーズを終え、会社全体からのECへの期待値が高まり、予算もマンパワーもEC事業に振られるようになった事業者も少なくないようですが、難しいのは、店舗で売れていた商品が必ずしもECでも売れるというわけではないということです。
もちろん、販売チャネルに関係なく、「売れる商品」はありますが、多くの商品はそう単純なものではありません。現状、ECの新規参入組の中では「とりあえず店舗スタッフがライブコマースをやってみる」といった場当たり的な施策に終始するケースも散見されます。そうした施策が販売商品に合致したものであれば効果的な手法になり得るはずですが、そうしたケースで売り上げ拡大という観点から成功した事例は現状、あまりみられません。
店販という販売手法をECに変えただけでは商品は売れない場合がほとんどです。ECで成功している事業者では、例えばSNSや商品のレビューなどから顧客の声を積極的に集めて、常に商品やサービスの改善に活かす取り組みを進めています。ECモール運営者も出店者向けにSNSの活用をサポートしたり、顧客の声を集められる仕組みを提供しています。次の一手に迷ったら、ECモールのコンサルタントへ相談してみるのもよいでしょう。通販サイトを立ち上げ、または、ECモールに出店して、ECを開始するというところで終わらずに、ECという販売チャネルで効果的なサービスを含めた商品の価値提供方法の工夫や改善にどう取り組んでいくかが重要になりそうです。
コロナ禍で大きく流通総額を伸ばしたEC各社(画像は「楽天市場」のトップページ)